別府 全客室源泉掛け流しリノベーションホテル
MURE Beppu
当プロジェクトは、旧生命保険会社のRC造3階建を、ホテルとして全面的にリノベーションしたものです。敷地は別府湾と別府のまちを国道10号沿いの商業施設によって分断されているかのような場所に位置しています。豊富な源泉を活用し、各客室に源泉掛け流しの浴槽を設けることが決まっていました。
設計思想：和の伝統とモダンを単に融合させるだけでなく、まちと海、RC躯体、源泉、古材など、既にある素材や環境を最大限に活かすことを重視したデザインプロセスを進めました。その結果、穏やかにまちに溶け込む建築として蘇りました。和モダンという商業的概念を超え、既存のものを無駄なく生かすことで、持続可能な建築や現象を実現しました。当初、ホテルオーナー陣は、国道沿いで交通量が多く、自然や海を望む景色がない敷地に対し、宿泊客に満足してもらえるかを心配していました。しかし、私たちはこの条件こそが、従来のラグジュアリーホテルとは一線を画した新しいタイプのホテルを計画するチャンスであると確信し、全体構成や各階の設計、デザイン監修を行いました。
1階について：施設ロビー内には、東西に通り抜ける動線を設けました。これにより、かつて分断されていた海とまちを繋げ、施設全体がまちと一体感ある空間となっています。当施設が源泉掛け流しであることを、より多くのお客様に知っていただくため、施設の通り沿いに足湯を配置し、誰でも無料でご利用いただけるようにしました。当初、チェックインとチェックアウトのためだけの賑わう場所となることを想定されていたロビーは、朝から散歩のおじいさんたちの休憩所として、若者たちやテレワーク中の人々にも愛され、別府のまちを感じられる空間となりました。足湯に浸かりながらカフェのお団子を楽しむ人々の姿をよく見かけます。このロビーには、持続可能性のある特異な現象が活気をつくっています。
2階3階の客室フロアについて：お客様が何度も温泉に入浴し、その間に繕いを楽しむという贅沢な時間を想定し、客室入り口で配管段差を解消することで、客室内をすべてバリアフリーに設計しました。各客室の浴槽は、檜や陶器など素材を変え、脱衣室と一体化することで、解放感のある空間を実現しました。客室の太鼓張り障子を開けると、ユニクロの看板が見えるという、この源泉ホテルならではの個性的な体験は、日本特有の魅力的なコントラストを感じさせます。中銀カプセルタワーの丸窓同様に、変化に富んだ景観が、滞在者に鮮烈な印象を与えることも意図しています。
SDGsについて：プロジェクトの初期段階で、オーナーが古民家を買い取り、その取り壊しに際して多くの古材を丁寧に確保しました。梁や柱をRC躯体の装飾とし、板や建具は客室の建具や棚やテーブルなどのインテリアとして再加工しました。このような手法により、建築には伝統的な日本の家屋の魅力が取り入れられました。
屋上について：屋上からは、別府湾や町並み、鶴見岳を一望できるテラスと、貸切露天風呂を設置しました。カフェ利用者には無料で開放し、足湯に浸かりながら地元の方々がリラックスする様子も見られます。
2022年12月竣工