KOMOREBI

プロジェクションマッピングの様子
木漏れ日という日本語が、他言語では単語として一字で訳すことが難しいと知って意外に思った反面、少しうれしい気分にもなりました。 こんなに綺麗でキラキラとした儚い現象に名前が付いていることに誇りを感じたのかもしれません。「KOMOREBI」は外国の方とぜひ共有したい言葉だと感じました。これを冠した文化芸術の国際交流事業が開催されることに敬意を表しつつ、私たちのプロジェクションマッピングの準備は始まったのです。 2017年初夏、私たちはナント市のエルドル川に沿って複数の会場を巡りました。プロジェクションマッピングに相応しい幾つもの素敵な外壁を見学しましたが、最後に半透明のガラスで覆われた巨大な壁面と出会いました。人々の思い出を様々な色と形のタイムカプセルに詰めて、それらを積層させた様子が透けて見えるフランス国立現代芸術センター リュー・ユニックの外壁でした。その時、木漏れ日を表現する為に相応しい外壁だと直感したのです。 日本に戻ると、まずはプロジェクションマッピング全編を流れる音楽の制作から始めました。すべての音源は、舞台芸術公演を行う各団体からそれぞれ快く使用許可を頂き、音源をご提供(一部は現地へ赴き録音させて)いただきました。湘南ダンスワークショップの皆さんの掛け声やステップの音、石見神楽の音楽(神楽)、瑞宝太鼓の演奏や奏者の息づかい、じゆう劇場の皆さんの声と音、さきらジュニア・オーケストラの子供たちの演奏。それらをサンプリングし、起承転結をもって繋ぎ合わせることで7分間の音楽となりました。 映像制作では、出展作家の皆さんから快く絵画や彫刻の写真利用許可をいただき、映像用素材として活用しました。しかし、作品群をスライドショーで単純に投影するだけであれば、それはプロジェクションマッピングではありません。個人的な印象として皆さんの作品からは、終わりのない連続性、緻密さと揺れ、鮮やか且つ癒しの配色、逞しい構図を感じていました。この特徴が壁面に現れてほしかったので、作品を拡大縮小したり、部分を抽出したり、部分だけを動かしたり、星屑を散らすようにしたりと、自由な動きをつけたアニメーションを制作しました。 太陽の陽の強さ、雲の流れ、風にそよぐ木の枝と葉、すべての総合的な作用で、2度と同じ現象となることのない木漏れ日の美しさ、はかなさ、逞しさ。私たちは、その現象を表現したいと決めていました。 出展作家の皆さんの作品が音楽に合わせて動き回る映像と、それを受け返す半透明ガラス壁の屈折が作用し、予期せぬ現象をプロジェクションマッピングで表現したかったのです。この現象発現をもって、微力ながらも「KOMOREBI」とは一体何であるかを、その理屈を超えた感性表現としてナント市の皆様にお伝えしました。 幸か不幸か、本番当日の夜は大雨となり、半透明の壁面は刻々と表面が濡れ動きました。私たちの現象にまた一つ不確定要素を増やしてくれました。私たちはずぶ濡れになりながら、ナント市の皆さんも傘を差しながらの観覧になってしまいましたが、3回の上映はすべて「Dépaysement」*な現象を体感していただけるものでした。壁面内部で光を受け返すタイムカプセル達も、100年の沈黙を忘れて踊っているように見えました。 こうして、実験的で野心的なプロジェクションマッピングをナントの地で上映することができました。
* Dépaysement  木漏れ日とは逆に、日本語の一単語では訳の難しいフランス単語「本来あるべき場所から物やイメージを移し、別の場所に配置すること、そこから生じる驚異」の意